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イスラエル式タクティカルトレーニング体験会「C3部 in 関西」レポート

タクティカルトレーニング
イスラエル式タクティカルトレーニング体験会「C3部 in 関西」レポート
1949年の建国当初から政治的・軍事的緊張の絶えないイスラエル。その国防軍は世界でもトップクラスの練度と実戦経験を持っている。そんな彼らはいったいどのような戦闘技術を用いているのだろうか。イスラエルの射撃スクールを代表する「キャリバー3(Caliber 3)」が提供する「イスラエル式」タクティカルトレーニングの体験イベント「C3部 in 関西」の様子をお伝えする。

日本におけるいわゆる「タクティカルトレーニング」で紹介されるメソッドはアメリカの軍・警察由来のものが多い。トレーナーによって細かい違いがあるが概して「アメリカ式」では体を射線にさらさず敵との距離を保ち、射撃することをまず第一義としている。

「イスラエル式」のポリシーはこれと対照的なものだ。映画「ワールドウォーZ」に出てきたあの迷路のような旧市街地における過激派のテロを想定し、ごく近距離の戦いをテーマの中心としている。必然的に一般市民を巻き込んだ戦いになることから、解決までのスピードも「アメリカ式」より重視されている。

こちらは「キャリバー3」の公式YouTubeチャンネルが公開している動画だが「アメリカ式」とは異質の攻撃性が感じられる。


また、メソッドのシンプルさも特徴のひとつだ。世界的には小規模なイスラエル軍は、適性の如何に関わらず全ての兵士を戦いに投入せざるを得ない。さらに徴兵制をしいているため新兵の肉体的・精神的な適性やモチベーションは、志願制の軍隊と比べるとバラツキが大きくなる。「イスラエル式」は誰にでも理解できるシンプルさと、誰でも一定の成果を出すことのできる明快さをもったメソッドとなっている。

「C3部 in 関西」が行われた大阪府堺市の「COMPANY
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COMPANYには2つのメインフィールドの他に、タクトレに使える小フィールドが用意されている。ターゲットスタンドやVTACウォールなど、射撃練習・タクトレに欠かせない設備がコンパクトにそろっている。
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今回の講師である「C-Tours」の代表白石圭一郎氏。である。海外タクトレスクールの日本代理店として各種訓練ツアーを提供している。今回は氏自ら受講された「キャリバー3」のクラスから基礎的な講習を行った。
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「タクトレ」はまずブリーフィングから始まる。講習内容とそのスケジュール、安全規則、緊急の場合の対応が共有される。
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日本での「タクトレ」はエアソフトガンを使用するが、その扱いは実銃に準じるとする会がほとんどである。射撃ラインに立ち指示があるまで装填しないこと、射撃直前までセイフティをかけておくことなど、特に厳重な注意が求められる。
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講習はまずハンドガンの扱いからスタートした。この際も講師はダミーガンを使用、生徒は隣同士で銃に装填されていないかどうかを確認する。
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まずスタンスの違いである。まずよく紹介される「アメリカ式」の「アイソサリーズ(Isoceles)」スタンスをおさらいしておこう。

プレートキャリアの防弾プレートが正面を向くよう相手に正対して立ち、両肩と銃を頂点とした線が二等辺三角形に近くなるよう構える。腰から上はボクシングのように軽く曲げて前傾させ、アゴも自然に落とす。体を左右に振りやすく、また動きながらの射撃(シューティング・オン・ムーブ)もしやすい。
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これに対し「イスラエル式」ではこうなる。前提として撃ちながら移動することはないので1: 膝を大きく曲げて腰を落とし、2: 上体はまっすぐに立てる。膝、肩は強く絞り込み、多少の衝撃ではビクともしない強さが必要になる。首もまっすぐに立て、広い視界を保つ。
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「アメリカ式」を見慣れた目には異質な構えだが、イスラエルならではの事情によるものだ。後述するが屋内戦闘においてもダッシュと静止を繰り返すイスラエル式では、急に止まって射撃をすると後ろの人間がぶつかってくることがあるため、倒れないように強く踏ん張らなければならない。また体を晒して射撃するケースも多いため、後続のための「盾」となるべく倒れないようなスタンスを取る必要がある。
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グリップも「アメリカ式」や射撃競技とは違う。利き手の親指を曲げてグリップを握りこみ、その上から非利き手をかぶせる。利き手の親指側面の摩擦が増し、強く握ることができる。
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正立したレディポジション。ここから足を開き腰を落として構える。
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ホルスターからのドロウについて。「イスラエル式」では基本的に弾丸を装填しないで銃を携帯する。これは格闘中に銃を奪い取られた場合、それで撃たれることのないようにである。そのため、ドロウした場合はこのように顔の前まで銃を上げ、左手親指でスライドを掴み、そのまま前に出して装填する。この動きを用いることで照準線が目線とあい、素早い射撃が可能となっているのである。
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「キャリバー3」のインストラクターによるドロウから照準までを紹介する動画。


サバイバルゲームやタクトレなどでの普段の射撃フォームとまったく違うこと、また銃のセイフティの位置によって操作のしやすさが変わることなどを参加者は実感していたようだ。
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午後は天候不順であること、他に利用者がいなかったことからCOMPANY運営者に特別に許可をいただき、セイフティエリアを使って続きが行われた。
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こちらもまず「アメリカ式」の構え方から。体はまっすぐ前に向けている。左手は横からつかみ親指を乗せるCクランプグリップを取ってもらった。複数のターゲット間の移動が速くなる。こちらもシューティング・オン・ムーブが念頭に置かれている。
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「イスラエル式」では1: 左足をやや前に出す。つま先は両足とも45度ほど右を向く、そして2: 大きく腰を落とす。そして3: 左肩をぐっと前に出すようにして体をひねり、上体をロックしている。4: 左手首もハンドガードを大きく握りこむ。こうして全身の筋肉をロックすることで反動に耐え、倒れることのないように強く立つのがポイントである。
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「キャリバー3」のインストラクターによるライフルのハンドリング。


構えがひと通り理解できたところで、コーナーの処理など基本的なムーブの練習に移った。少しずつスイープしていく「カッティングパイ」をとるところは「アメリカ式」と同じだが、コーナーからの距離、そしてクリア速度はまったく違うものになる。

まず1: 銃身がコーナーから出る位置をとる。2: そこから右足をコーナーに対して45度、そして90度になるよう動かし、3: 1歩ごとにリーンして位置を確認する。この時体を左右に傾けないことに注意する。
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この0-45-90度のわずか3歩で一つのコーナーをクリアしていくのが基本である。一度銃を突き出し、体を晒したら後退してはならない。敵が後退する際に手榴弾を投げるケースが多く、後退するとこれが見えずに対処が後れてしまうためである。

前方から。コーナーを中心に右足が0度、45度、90度と移動していることに注目されたい。上体は傾け過ぎると銃の反動で倒れてしまうので注意が必要である。
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「アメリカ式」ではコーナーからある程度の距離をとり、銃身を突き出さないこととしていることが多い。銃を突き出すと発見されてしまうからである。しかしイスラエル式のスピードであれば、銃が見えた瞬間には飛び込まれているため発見されても大きな問題とはならない。どちらがいい、という問題ではなく、距離をとって安全を確保するか、あるいはスピードで相手に対処させないかというコンセプトの違いと見るべきだ。
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なお実際のペース感はこちらの動画を参考にされたい。


コーナーから距離を取るのは待ち構えていた敵に銃を掴まれないためでもある。しかし銃を掴まれるということは、そこに敵がいることでもあり、2番手・3番手が入っていって対処することになる。
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こうした接近戦を前提とした思想はイスラエル軍ではよく見られる。ハンドガンに装填しないで携帯する運用もそうであるが、例えばライフルのスリングを非常に長くしてかけているのもライフルを掴まれた際に、相手から体を離して対処できるからである。

ライフルの場合も同様に0-45-90の3歩でクリアしていく。なおコーナーの左右に関わらず、持ち手はスイッチせずに体を大きく入れてリーンすることになる。銃のスイッチを訓練するよりも、体幹の筋肉を鍛えて対応するほうが簡単であるということである。
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これらの構え方・クリアリング技術を最後はキルハウスにて練習を行った。なおストレスをかけるため、許可を得て銃撃戦の音声を大音量で流している。騒音の中では自分の銃の音や自分への指示や呼びかけが分からずストレスフルなものになるのを再現するためだ。なおこの際はエアソフトガンで射撃は行わず、動きの練習のみとなった。

まず1番手は0度までのクリアリングを行った。後ろの2番手は1番手をコーナーと見て、クリアリングを開始する。
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2番手はクリアリングを続けるが部屋に入らずドアのもう一端につく。そして2人同時にボタンフックでエントリーする。狭いドアでぶつかってしまうためタブーとされているが、イスラエル式では複数の銃口が同時にエントリーするのが基本である。2人の間隔をなるべく広く取るためドアの縁に手をかけて回っている。
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1番手は左手を後ろにやって、出口を警戒する2番手を誘導している。そして片手で3歩のクリアリングを行う。色々なシチュエーションを常に同じ動きでクリアできることに注目したい。
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以上が基本的なガンハンドリングとクリアリング、キルハウス掃討の手順であった。よく紹介される「アメリカ式」のルームエントリーとは、まったく異質な技術であることが分かると思う。こうした違いは社会的環境や軍組織から生まれるが「イスラエル式」と「アメリカ式」の比較はその端的な例ではないだろうか。

今回の「C3部」は「キャリバー3」の体験会ということで試験的な開催となったが、今後不定期ながらも「お試し会」ないしは「事前講習会」として続編が開催される予定である。タクトレに興味がある人、イスラエルの「キャリバー3」実際に受講しに行きたい人などは以下の「C-Tours」公式Webページをチェックされたい。

C-Tours LLC | travel agency for "Tactical Professionals"
http://c-tours.net/
Photo & report: dna_chaka


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