映画「ネイビーシールズ」試写会レポート
先日、大阪市内某所で 6/22 より公開予定の映画「ネイビーシールズ」(原題:Act of Valor) の報道機関向け試写会がおこなわれた。ミリブロ読者の中でも、過去類を見ないほどに期待のビッグタイトルであるこの映画、何と言ってもその注目の要因は、「主演:米海軍特殊部隊 Navy Seals」であることに他ならない。
いまだかつてこのような映画があったであろうか。ホンモノの兵士、しかも特殊作戦の任務に就く兵士が、顔出しで出演する・・・、そればかりかストーリー以外、登場する武器や作戦内容まで全てホンモノという前代未聞の設定となる。
【ストーリー】
ミッションは、極秘の任に就くCIAの女性エージェント モラレスの救出であった―。
モラレスは医師を装い、コスタリカで潜入操作をおこなっていた。彼女が追い掛けていたのは、通称「クリスト」と呼ばれる一人の男。クリストは麻薬や武器密輸などのブラックビジネスに手を染め、東南アジアのテロリスト集団、アブ・シャバールとの接点が疑われていた人物でもあった。CIA の動きに気付いたクリストは、モラレスを拉致。米国は海軍特殊部隊 ネイビーシールズ への出動を要請し、モラレス奪還を計画する。
ローク大尉率いるシールズ チーム7 は、暗闇の中 航空機からのパラシュートで降下、鬱蒼と草木が茂るジャングルの中で作戦を開始する。チームがクリストらのアジトを確認し、見張りの敵勢力を音も無く1人、また1人と排除し、モラレスの身柄確保に向けて近付く。残忍な拷問に悲鳴を上げるモラレス。一刻の猶予も無い。チームがアジトへ踏み込み、鮮やかな手腕で敵を排除する。激しい銃撃戦の中でチームのマイキーが負傷。モラレスとマイキーの負傷者2名を連れてチームは現場を離脱するが、敵の援軍により激しい追撃を受ける。カーチェイスの末に辿り着いた川では、完璧なタイミングで別動の舟艇部隊が合流する。隊員個々の卓越した戦闘スキルはもちろん、チームの見事な連携により任務は完遂される。
だが、これはこれから始まる大きな戦いの幕開けに過ぎなかった。アジトから押収された携帯端末から、クリストとアブ・シャバールによる大規模なテロ計画の存在を知る。
チーム7 からエイジェイとレイがアフリカへ派遣、砂漠の中にポツリとある飛行場でおこなわれる武器密輸を手掛かりにアブ・シャバールの動きを追い掛けることになる。テロリストらの行き先はメキシコ―。
一方その頃、姿をくらませていたクリストは南太平洋沖に浮かぶクルーザーで悠々自適な生活を過ごしていたところを、シールズ チーム4 により身柄を確保される。尋問のプロ、ミラーによりクリストは米国各地を狙った、9.11をも凌ぐ史上最大規模のテロ計画の存在を口にする。ターゲットはラスベガス、サンディエゴ、サンフランシスコ・・・主要都市に向けてイスラム聖戦派のテロリスト 16名 が金属探知機に引っ掛からない驚異的な破壊力を持った自爆ベストを着用して国境をすり抜けていく。今まさにその計画が進行中とのことを知った米国は、メキシコ協力の下でシールズ チーム7 を派遣する。しかしそこは麻薬カルテルが支配する最悪の危険地帯であった―。
【映画の見どころ】
俳優と言う存在は映画作品に必要不可欠だが、本作に代表される戦争映画では今後もう俳優が必要じゃなくなるかも?と感じるほどに、現役隊員らの熱演振りが際立っていた。オフの日に家族やチームメンバーにみせる、何とも柔らかい笑顔と、任務の中で銃を片手に握り締めた時の鋭い眼光。まるでスイッチのように切り分けされたこの表情は、並みの俳優では決して演じれないと感じる。
そしてやはり、ミリブロ読者のようなミリタリーファンにとっては登場する武器や兵器の真実味が一番の関心が集まるところではないだろうか。映画「ネイビーシールズ」では、史上初の米海軍の現役バリバリ、軍事機密の塊とも言えるオハイオ級の戦略原子力潜水艦の出演を果たした。原子力潜水艦は、その名の通り原子力で稼動しているため、途方も無く長期間の潜行が可能。グローバルな視点での戦略を踏まえ、その存在地点を明らかにすることは大きなリスクを背負うことになる。その為、今回の映画出演に当たって撮影裏話としては、僅か45分の時間が与えられたに過ぎず、撮影時の待ち合わせも大海原で渡されたGPSの座標で捜索する必要があったという。
次に隊員の装備に着目して見ると、Crye Precision Multicam や AOR 1 による 新型戦闘服 (Combat Shirts / Pants) に身を包み、まだまだ目新しい Sylinx の "Quietops" でチームメンバーとのコミュニケーションを図る姿、小型 UAV・RQ-11 RAVEN がハンドラウンチにより飛び立ち、手元のスマートディスプレイで敵勢力の状況を把握。また夜間の作戦ではマニア垂涎の AN/PVS-18, AN/PVS-15 といった最新型暗視装置により、昼間と見間違うほどクリアに視界を得た中で作戦を優位に展開する―。映画撮影時と現在とのタイムラグこそあるものの、ハイテク装備が映像中に惜しみなく登場している。
マズルコントロールやトリガー・セイフティー、ルームエントリー時の流れるようなチームの連携・・・、特殊部隊を中心に兵士らが使うこれらの装備の数々を、ホンモノの兵士が運用している状況、しかもホンモノの戦術、テクニックを組み入れて使用する状況を見ることができるのは珍しいのではないだろうか。
光学機器の取り付け方向が逆さま・・・など、どうしても一般的な戦争映画ではディテール部分での描写において詰めの甘さを指摘されることが過去にあった。映画「ネイビーシールズ」では、戦闘シーンでの演出の細部においても、現役の特殊部隊の兵士が監修。「何がリアルなのか」、突き詰めた先に残されたのは、究極とも言える シールズ 自らの再現であったということだろう。
撮影は実弾を使っておこなわれ、これでもかと言わんばかりのリアルさへの追求を感じ取れるが、そうしたアクション映画としての魅せ場だけでなく、隊員を送り出すシーンでは、実際の家族が登場するなど、メッセージ性の秘められたシーンの数々も見逃せない。
何故、闘うのか?
何を犠牲にし、何を守るのか。命を掛けてまで、彼らを駆り立てるものとは―
映画を通して感じる一つの素朴な疑問。「何故、闘うのか」。
「ショウ」としての映画でみた場合、ドンパチがあって派手な格闘シーンがあって、それはそれで十分に楽しめるものなのだが、この映画を通して一番ヒシヒシと伝わるのは、その闘う意義について だ。
米軍が持つその圧倒的な装備、戦力による強さから、あたかも米軍万歳の傾向が強くなり、プロパガンダ的側面からみられがちなこの手の映画。確かにそういった側面もあるかもしれない。映画を通して感じるのは、並々ならない試練を経て自ら特殊部隊の扉を叩き、入隊し、殺されるかもしれない過酷な任務に就き、その先に見えるものは一体何なのだろうか・・・。国家への忠誠?自らの命よりも大切な大義とは?
兵士が示す国家への愛、すなわち愛国心とは、命を掛けて忠実な任務を果たすことに他ならない。そしてその愛国心とは、愛すべき妻や子供、家族を守ることと同義なんだと感じさせられる。
ヒーローモノの映画であれば無傷で、そして命を落とすことも無く、ドンパチをやり合い、圧倒的な勝利を収めることになるが、映画「ネイビーシールズ」では傷付き、命を落とす仲間の姿、そしてそこに残された家族の姿が描かれている。世界最強と謳われるシールズも、決して無敵の殺人マシーンではなく、そこには血の通った人間模様があるのだということが、更にリアルさを引き立たせている。
とにもかくにも、ミリタリーファンにとってこの映画は、映画館の大スクリーンで迫力の映像を観るだけでなく、DVDがリリースされた暁には、バイブル的存在としてコレクションの1つに加わることは間違いない。
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