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将来個人用戦闘装備 その2

将来個人用戦闘装備

■将来個人用戦闘装備の開発思想
同じ将来個人用戦闘装備に分類されるものであっても、アメリカではまだ開発と評価試験の段階、日本ではまだ研究を進めている段階のものだ。それがフランスではすでにFELINの実戦配備を始めている点が、奇異に感じられるかもしれない。これには、おカネや技術力の問題だけでなく、開発思想の違いが影響している。

日本やアメリカではどちらかというと、最初から一気に高みを目指して、完成品を作り上げようとする傾向が強い。それに比べてフランスやイスラエルでは、ほどほどのスペック・性能のものを迅速かつ安価に開発・配備しようとする傾向が強い(実際、技本の関係者もFELINについて同様のコメントをしていた)。そうした開発思想の違いが、配備の早さに影響しているわけだ。

ただ、情報通信技術やセンサー技術は日進月歩だから、ある時点で最新・最高性能だったものでも、何年か経つと最新でも最高でもなくなってしまうことは少なくない。そのことを考えると、まずは「ほどほど」の性能を持つものを配備しておいて、それを後から段階的に改良していく考え方にも理はある。どっちみち、評価試験や実戦を経験すれば、いろいろと改良したい点は出てくるものだから、それを反映させる必要もあるのだ。

実際、FELINを最初に配備して評価試験を実施した際にも、戦闘ベストの全面的見直し、光学機器の品質改善、バッテリの充電時間短縮、素材の品質改善、抗弾プレートの改良といった修正が加わっている。今後も、運用経験を蓄積していけばさらなる変更が加わることになるだろう。だから、そうした段階的改良を取り入れやすい設計にしておくことも重要である。

また、高度化した装備は、それを使いこなせる兵士がいて、初めて威力を発揮することができる。だから、完成品でなくても実際に配備・運用することで、将来個人用戦闘装備を使いこなせる兵士を育てるとともに、現場からのフィードバックを得ることも大切である。

最新の敵情をリアルタイムで入手できる仕組みを整えても、それを使いこなして情報の優越を実現、そこから戦闘での勝利に結びつけることができる兵士がいなければ、意味がなくなってしまう。ハードウェアを作って配備すれば一丁上がり、という話ではないのだ。将来個人用戦闘装備に限らず、陸・海・空のどの分野にもいえる話である。

それに、将来個人用戦闘装備について喧伝しておいて、こういうことを書くのもなんだが、歩兵たるもの、自分の眼で狙いをつけて正確に小銃を撃てなくてどうする、と思う。また、地図と方位磁石でナビゲーションする能力を喪失しても問題があるだろう。ハイテク装備は有用なものだが、それにばかり依存してしまうのはどうだろうか。

■軍用品の代わりに民生品を活用する流れ
実は、将来個人用戦闘装備で使用する携帯式コンピュータの代わりに、市販のスマートフォンを活用してはどうか、という考え方が出てきている。スマートフォンは一種の小型コンピュータであり、しかも携帯電話やIEEE802.11無線LANの機能を標準装備しているから、データ通信用の通信機と端末機器を一体化したものとみなすことができる。

しかも、スマートフォンはアプリケーションの追加によって機能を拡張できるから、ハードウェアが民生品と同じであっても、軍の情報システムに対応したアプリケーションを追加することで、軍用データ通信端末に変身させることができる。そうしたアプリケーション群の一例が、米レイセオン社が2009年に発表したRATS(Raytheon's Android Tactical System)である。Androidスマートフォンだけでなく、アップルのiPhoneを利用する事例も存在する。

ただし、安価な上に多くの兵士が使い慣れているメリットがある一方で、民生品をそのまま使用すると堅牢性・耐久性の面で不安がある。また、勝手に妙なアプリケーションをインストールしてトラブルに見舞われたり、ウィルスを送り込まれたりするリスクも考えられるので、セキュリティ対策を考えなければ安心して導入できないだろう。

ちなみに、スマートフォンとは違うが、ロッキード・マーティン社のTDA(Tactical Digital Assistant)やゼネラル・ダイナミクス社のGD300といった、軍用品として開発した携帯情報端末も存在する。近年では、軍用Androidタブレットなんてものまで出現している。

また、前述したFELINには通信基盤の強化構想があるのだが、ここでも民生技術を活用することになっている。それが、2010年に仏国防調達局 (DGA : Délégation Générale pour l'Armement) がサジェム社に開発契約を発注したRIF-NG(Réseau d'Information du Fantassin de Nouvelle Génération)で、現在のFELINが使用している800MHz帯の無線通信網を、第4世代携帯電話の技術に置き換えるものである。すでに実現している音声/データ通信と暗号化の機能に加えて、さらなる追加機能を実現する計画だ。納入開始は2013年の予定となっている。

■将来個人用戦闘装備の課題
ここまで、仏陸軍が配備を進めているFELINを例にとって将来個人用戦闘装備の概要について解説してきた。細かい内容や対象範囲は国によって異なるが、基本的な考え方に、それほどべらぼうな違いがあるわけではない。だから、直面する課題も似たり寄ったりになりそうだ。

もっとも分かりやすい課題としては、電源供給がある。個人が携帯するものである以上、電源ケーブルをずるずると引っ張って歩くわけには行かず、バッテリから電源を供給する必要がある。すると、どれだけ電力消費を抑えるか、どれだけバッテリの長寿命化を図るか、といった課題ができる。使い捨ての電池では補給の負担が大きいので、現時点では充電池を使用するケースが多いようだが、将来は燃料電池を使用する話が出てくるかもしれない。

また、本質的にデリケートな機器であるコンピュータやディスプレイの、耐久性・耐侯性・堅牢性といった課題もある。「タフブック」に代表されるような頑丈ノートPCはいろいろと出回っているが、機器を小型化するほど、耐久性・耐侯性・堅牢性を実現する際の重量・スペースの制約が厳しくなるので、それをどう解決するかが問題だろう。しかも、耐久性・堅牢性を実現する一方では、小型・軽量化を図らなければならないという課題もあるのだ。この両立は容易なことではない。

さらに、コンピュータはソフトウェアがなければただの箱だから、そのソフトウェアを迅速に開発すること、バグのない安定したソフトウェアを開発することも重要な課題である。戦闘の最中にブルースクリーンなんか出されては困るのだ。

そして、多国籍の共同作戦を行う環境では、各国が持ち寄ったシステムをどのように連接して情報交換を可能にするか、という問題も出てくる。異なる国のシステムを連接してデータのやり取りを可能にするには、データを記述する際の形式や、通信相手を指定する方法を取り決めておかなければならない。そしてもちろん、不必要なところに重要な情報が流出しないように、セキュリティ対策やアクセス権管理を行う必要もある。将来個人用戦闘装備に限らず、コンピュータとネットワークが関わるところにはついて回る問題である。

TEXT : 井上 孝司

将来個人用戦闘装備 その1


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